「地方の時代」映像祭

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映像祭について

01「地方の時代」映画祭

 「地方の時代」という社会思想は、1970年代後半、当時神奈川県知事であった長洲一二氏らによって提唱された。長洲氏らは、戦後30年にわたってわが国で進められてきた「中央集権的近代工業化」社会の建設が、政治・経済・文化のいずれの局面でも行き詰まり、社会の歪みを拡大しているとし、こうした状況を突破し、「人間復興」の道を拓くために必要なのは「地域」「地方」を新しい目で見直すこと。そのための「歴史的キーワード」が「地方の時代」であるとしたのである。
 1980年、神奈川県と川崎市の呼びかけに、NHK、各民間放送局、全国の自治体関係者が呼応、テレビ映像を通じてこの理念を具現化しようと「地方の時代」映像祭がスタートした。川崎市で開かれた第1回映像祭には、全国各地の放送局および自治体から105の作品が「映像展示」され、放送現場と自治の現場との交流がはかられた。1981年、第2回の映像祭から、「映像コンクール」が開かれるようになり、毎年、全国各地の放送局、自治体、市民から、地域を描き、時代を語る意欲的な映像作品が数多く寄せられてきた。
 以来30年余、映像祭の舞台は当初の22年間が神奈川県・川崎市(札幌、長野、富山で各1回)、2003年から埼玉県・川越市、そして2007年から大阪府・吹田市へと移ったが、「地域・地方からわが国のあり方を問う」という基本テーマは揺らぐことなく維持されている。

02「地域発の映像」が伝えるもの

 「地方の時代」映像祭に、全国各地から寄せられた応募作品は既に6千を優に超える。それらを俯瞰する時、そこには、地域からこの国を見つめ続けてきた大いなる「時代史」が浮かび上がる。それらの記録はそのまま、日本のテレビドキュメンタリーが時代と向き合ってきた記憶の宝庫である。
 改めて意味づけるなら、第一に、この映像祭に集まる作品を見ると、いまこの国で何がどう動いているか、「時代」を読み取ることができる。そして、地域の多様性と人間らしさを守っていくことがいかに困難であるか。にもかかわらず、地域に生きる多くの民がその困難に挑んでいるかを知ることができる。
 第二に、それらの作品群は、「小さな民が歴史を作るという歴史観を展開してきた」(1987年映像祭基調講演・鶴見和子氏)。「小さな民」とは地域の普通の人々であり、あるいは障害や差別によって社会的弱者の立場を余儀なくされた人々である。映像は、そうした人々の営みを、人々の表情やしぐさ、あるいは風景の風や匂いを含め、伝えてくれる。映像で地域を記録することの意味がそこにある。
 第三に、地域が直面する問題を深く掘り下げるとき、そこには、地域相互の共通の課題を見出すことができる。それ故、地域の「小さき民」の連携は、国家的課題への問題提起を行なうばかりか、時には国境を越えて広がっていく。「小さき民」の視点、立場から、地域に共通の普遍的価値を見出し、地球規模で問題の解決を考える。それは、「インター・ローカリズム」(1981年映像祭基調講演・堀田善衛氏)という言葉でも語られている。
 第四に、映像祭は、多くの作品群を通じて、放送局、ケーブルテレビ局の制作者、市民、学生、高校生、自治体関係者らが交流し、地域からの発信と映像制作の課題とを語り合う広場となってきた。その交流と切磋琢磨の磁場から、全国各地にすぐれたドキュメンタリスト、映像制作者が生まれ、育った。そして彼らは、地域の暮らしと伝統を継承しながら、新しい地域の文化と個性とを多様に創造してきた。

03 新たな「地域主義」に向けて

 現在の時代状況は、地域にとってどのように変化、あるいは進化してきただろうか。「中央集権的近代化」のあり様に対し、地域・地方は十分な対抗軸を組織しえてきただろうか。その手ごたえは甚だしく心許ない。「地方の時代」の提唱から約40年を経て、むしろ極限にまで中央一極集中、市場経済偏重が進み、効率主義のもとで、地域・地方は社会システムとしての存続さえ危ぶまれている。それが多くの「小さき民」の実感である。近年、「真の地域主権、国民主権の確立」を求める声が広がっているのも、社会の歪みの拡大が放置できないところまで深刻化したことの顕れと言える。とするならば、新たな時代に向かう「地方の時代」映像祭に課せられた課題は明らかである。いま、地域・地方において取り上げなければならない問題、伝えなければならない時代状況は、飛躍的に増えている。「地方の時代」という「歴史的キーワード」の果たす役割は重要度を増している。我々は、地域の「小さき民」の「小さき営み」を伝え続けることで、人間疎外の社会を多少なりとも変える努力を継続すべきである。
 新たな「地方の時代」に向けて、この映像祭が、さらに意義深いものとして発展していくために、皆様のさらなるご助力、ご支援をお願いします。

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